研究の概要

ナノメートル,表面科学,自己組織化 がキーワード

現在,コンピュータなど電子機器で使用される電子デバイスのトランジスタの加工サイズは,高性能化の進展とともに小さくなり,数十ナノメートルのレベルまで到達しています.

しかし,このままの微細化を進めることで高機能化を達成していく流れは,加工技術の限界や材料物性の制御の困難性などによって行き詰まることが予測されています.

このような状況を打開するひとつの方向性として,ナノメートルサイズの材料特有の物性を利用した新しいデバイス技術や作製技術の開拓が必要とされ,ナノテクノロジーとして注目されています.

幅広いナノテクノロジー分野の中において,「表面科学」,「自己組織化」,「ナノメートル」を共通項として,将来の電子デバイスのためのナノテクノロジーおよびナノサイエンスを本研究室の中心テーマとしています.

また,1ナノメートルというサイズは原子10個程度に相当しており(原子の大きさは約0.1ナノメートル),典型的なナノ材料として有機分子や生体分子を応用した技術の研究も中心テーマとして研究しています.

ボトムアップのアプローチ

このような極微細な材料を扱い,加工するためには,いままでとは異なるアプローチが必要です.
コンピュータなどで利用される集積回路を作製するリソグラフィー技術は,大きな材料を切り刻んで小さな素子を作る方法ということで,トップダウン型の加工法と呼ばれます.この技術は,現在微細化の限界に近づきつつあります.
一方,原子や分子レベルの小さな構造体を積み木細工やブロックのようにくみ上げて小さな素子を作る方法は,ボトムアップ型の加工法と呼ばれます.この技術では,個々の原子や分子を操作する技術が必要です(図1).



図1.原子分子操作の概念図

原子や分子を観察・制御するツール

走査トンネル顕微鏡(STM)は,表面の原子や分子を直接観察できる顕微鏡です(図2).これを用いると図3に示すにシリコンウエハ表面の水素原子を一個ずつ区別して観察することができます.
また、さらに原子サイズの字を書くことも可能です.下にSTMでシリコン表面に書いた「広大」言う原子文字を示します.



図2.走査トンネル顕微鏡の原理


図3.STMで観察したシリコンウエハ表面の水素原子像


図4.原子文字「広大」

ボトムアップナノテクノロジーと自己組織化

個々の原子や分子を操作する技術は,ナノメートルの材料を作製するときの強力ツールだと考えます.
しかし,物質や素子が非常に大量の原子で構成されていることを考えると,ひとつひとつの原子を「私たちの操作で」動かして材料や素子を作り上げることは,膨大な時間がかかるため現実的ではありません.
この問題を回避するための有力は方法の一つは自己組織化を利用することです.
自己組織化では,原子間や分子間の特定の相互作用を利用したり,熱力学的に安定な構造を利用することで,「形」や「構造」を組み上げる方法です.
自己組織化のもっとも洗練されたものを生命の発生のプロセスに見ることができます.
下図のように,有機分子が自己組織的に集合することで,周期的な構造をすることができます.
このような技術を確立すれば,ボトムアップで機能的な素子を構築することもできると考えられます





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